彼女が腕を振るうと死の鎌は蛇のようにしなやかにうねる。
それに絡め取られた緑の髪が、花びらに姿を変え、泡沫<うたかた>の幻のように消滅した。
空を揺るがすような悲鳴が上がった。
水の精霊が生み出した盾が、緑の精霊と死神を隔てた。
透明な盾を挟んで、交差する緑と赤の瞳。
寒気を感じるほどの、殺気が、その場に生まれた。
『緑の方様!お静まり下さい!』
『おかしな事を、水殿。友を傷つけ、我の愛し子の命をも脅かすモノを前にしてか?』
緑の瞳の奥で、憎悪がちらついていた。
かつて、こんなにもまざまざとした感情を、彼から向けられた事があっただろうか。
生まれ落ちた日の……ワタシの産声を止めるためにこの喉を貫いた、あの瞬間の嫌悪さえも遥かに凌ぐ、深く冷たい殺意。
砂が混ざった地から芽吹く、儚い草花の命を靴の底で枯らしながら、黒い大鎌を構えた死神は唇を開いた。
「灰色様……いえ。緑の木の精霊よ。神は確かにあなたを赦された。しかし、あなたの犯した罪は償い切れぬほどに大きい。いつか、あなたが歪めた魂が世界の敵になるならば、ワタシ<死神>は己の使命を全うするために、あなた方を滅します」『己の意志ももたぬ神の人形ごときが、我を滅するだと?よくぞほざいた!人形ごときに、灰色の名を持つモノを滅することが出来るか、今試してみるがいい』
水の精霊を押しのけ、片手に生み出した光の刃を握りしめながら緑の精霊が一歩を踏みだしたその時。
「止めて!バルサさま」
木の根で作られた守りの結界の中で、少年が叫んだ。
空を抱いた瞳が、涙の向こうで揺れていた。ぽたぽたと地面に落ちた水が、地を濡らした。
金色の髪が揺れて、きらきらと輝く。ああ、まるで光の子ではないか。
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