風や水の精霊の、嫌悪が混じった視線は特に気にならなかったが、灰色の言動や態度はワタシの心を揺さぶった。
ああ。もう早くこの場から立ち去ってしまおうと、彼らに背を向けて一本踏み出したその時だった。
「精霊さまー!緑の精霊さまー!」
空を閉じこめたような青を瞳に宿し、光に包まれたひとりの幼い子どもが、息を乱して走ってくる。
ワタシはその子どもの胸のあたりで、鈍く輝く光を凝視した。
心臓の上。
チカチカと点滅する光。
子どもから、生きている生物の音。心音は聞こえない。止まったままのそれの変わりに、緑の光が輝ていた。
『こら。走ってはいけないよ』
少年を迎えるために、緑の精霊はふわりと地に降りた。
竪琴を抱えた少年は死神の横を駆け抜けて、大樹の前で止まった。頬を薄紅に染め、不安と焦りが綯い交ぜになった顔で緑の精霊を見上げた。
風の精霊はにっかりと笑い少年に挨拶をし、水の精霊はすっと彼らから距離をとった。
死神の目には少年の背中と灰色の顔しか、うつっていない。
この少年が。
灰色様の特別なの?
憧れて羨(うらや)んだ灰色が、決してヒトを愛そうとはしなかった彼が、世界を敵に回しても守ったもの。
すぐ側に彼らはいるのに、彼らの声は聞こえない。世界から音が消えていた。自分の心音だけが、ドクドクとうるさかった。そして、灰色が、笑った。
慈しむような、切なげな、愛しさの溢れる眼差しで、ふわりと、笑った。
衝動に死神姫は我を忘れた。
いったい何が彼女をそうさせたのかは誰にも分からない。彼女自身にも分からなかった。けれども死の鎌は確かに彼女の手の中にあって、哀れな死神は衝動の赴くままに腕を動かしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
next→]
生きてました。
生存確認だけの記事ばかりになりそうだ。いやいや。
頑張って、小説あぷします。
一つぐらい、物語にピリオドを打たなければ。頑張ろう。