スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

箱庭<灰色と死神>]

幼い少年の背に黒い刃を振り下ろした事は、まるで遠い世界の出来事のようだった。

風がおきた。
地を割って天に伸び、少年の身体を庇うように包んでいるモノは、大樹の根だった。

水の精霊が水の盾をつくりながら、緑の精霊を守るように立ちふさがった。

青い空色の瞳が、悲しみと恐怖を宿しながら揺れている。

「風様!」

駆け出そうとする小さな身体を、大樹の根が遮った。
地に、風の精霊が倒れていた。少年を庇って、死の鎌に貫かれた精霊が、消滅の苦しみに喘いでいる。その向こうで、瞳に怒りを宿した緑の精霊が己の敵を見ていた。

『これは、双子の意志か?死神よ』

緑の精霊の声音は地を這うほどに低く、それは死神だけではなく傍らの少年までも怯えさせた。

ワタシは。

『こたえよ。私の罪を許す代わりに、我が愛し子の命を奪えと、そう命じたか?』

あれらがそう命じたのか。

冷たい怒りの声音が、ワタシを貫いた。

ワタシは。ワタシは何故。

死神は数歩後ずさり、まるでこの世に生まれ落ちたあの日のように、その心を恐怖と混乱に満たしていた。

灰色の、緑の瞳が、眼前に迫った。

死神姫の細い首を片手で締め上げながら、緑の精霊は憎悪と怒気を含んだ瞳で、彼女を睨みつけた。


『これが双子の意志ならば、あれ等に伝えよ。「我はこの先、この身と魂のすべてをかけて、愛し子を守だろう。世界と対立する事になろうとも、我が意思は揺るがぬ」
死神よ。二度と、我が友と愛し子に近づくな。我のモノに害をなすならば、世の果てまででも追い詰めて、貴様を消し去ってくれよう』


世界と対立しても……。

それほどまでに、その惰弱な魂が大切なのですか?灰色様。

全てを失ってもかまわないほどに?

訊くまでもない、答えはすでに示されていた。
灰色は、罪を犯した。双子の創り手がそれを赦そうとも、事実は覆せない。

心臓の代わりに、少年を生かし続ける緑の光。それが罪。それこそが、彼がヒトを愛した証でもあった。

「ワタシは、死を、司るモノよ」

死神は緑の精霊の冷たい掌の中で喘ぎながら、それでも確かにそう言った。

これは、ワタシの意志だと。




--------------------------------

next⇒]T
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2012年07月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31