「きっとお前は俺の運命なんだろうな。失いかけるまで気付けなかったけれど、お前こそが俺の魂の半分だ。お前が生きてゆく場所を守るためなら、どんな孤独にも堪えられると思った。
俺の世界は喜びで満たされている。始めて父さんと呼ばれた日も、ベッドを取り合った日も、拗ねたお前を探しにいった日も、沈む夕日を並んで見た日も、何気ない日々のすべてが尊いモノになった。
俺の命に意味を与えたのはお前。そうだ……お前こそが俺の太陽だ。陛下の手を放しても、お前を助けたいと思った」
「隊長、泣いているの?」
腕を延ばして、隊長の頬に触れた。
あたたかい。
不思議だ。さっきまでこれを夢だと決め付けていた心は、どこかに吹き飛んでしまった。
隊長の言葉のすべてを理解したわけじゃない。だけど―。
「なぁ、ジェイ。消えたいだなんて言わないでくれ」
苦笑いの隊長が、頬に触れている俺の手を掌で包んだ。
泣いているのかと再び問い掛けた。いいや、と隊長は首を振って、泣き方は知らないんだと笑った。
世界が霞んだ。思考が空ろになる。大切なヒトの痛みの前で、己の痛みなんて……。
「あのね」
「うん」
「俺は、まだこれが、ちゃんと現実だっていう、確信が持てない」
「ん」
「幸せで、だからこそ怖いよ。現実のあんたが苦しんでいるかもしれないのに、幸せな夢に溺れるなんて絶対に嫌だ」
「ん」
「目が覚めた時から、ずっと現実味がなくて。どうやって今を信じたらいいのか分からない。でも……もし、もう一度眠って、目が覚めてもまだ」
まだ。と、俺の言葉を隊長が盗んだ。綺麗な光がゆらゆらと揺れている。隊長は俺を太陽だと言ったけれど、俺には隊長こそが太陽だ。
「目が覚めてもまだ……お前が夢だと決めつける今が続いていたら、その時は俺と生きてくれるか?ジェイ」
眠って起きて、それでもまだ、あなたが俺を一番だといってくれるならば。
「うん。証を見せてくれるなら、現実だと信じるだけの力を示してくれるなら」
ちっぽけな俺の心に勇気を与えてくれるなら。一緒に、生きてもいいよ。
「……ああ。約束だ」
隊長が俺の手にメダリオンを握らせた。
隊長の宝物。
「これ……」
「持っていろ。俺の言葉が現実だと信じられるまで。きっとソレはお前を守る力になる」
「……やっぱり、夢なのかな。有り得ないことばかり起きるよ。隊長」
「だったら、眠ればいいさ。眠って、目覚めて、それでもまだ」
まだ、今が続いていたら、その時は名前を呼んで。
そうしたら俺は、貴方が好きだと抱き締めるから。
―――――――――――――――――
しのびこいうた6・終
next⇒しのびこいうた7
―――――――――――――――――