神父である父に育てられた俺は、常に親ではなく神父でいる父に違和感を感じつつ、なんと言葉にしたら良いかわからないまま生きていた。
ヤクザの女に手を出し追われ、教会に匿ってほしいとやってきた朝倉を、神父として当然に匿った父に激昂する母。そんな母の疎外感を埋めたのは、朝倉だった。朝倉と共に事故で亡くなった母を、父は神父として弔い、俺を育て続けた。
やがて俺は稼業を継ぎ、神父となり結婚するが、父と同じその歪んだ感覚を断ち切る事が出来ず、妻を亡くしてしまう。
息子がアルバイトするコンビニで、家出したまま戻ってこない息子を待ちつつ、店長と二人三脚で頑張ってきた。だが、突如帰ってきた息子が跡を継ぐと聞き、失踪する。店長の事を気にする息子に神の代わりに制裁を加える。
神父になった父は、息子が人殺しであると知り、真相に辿り着いた男を殺す。
カオ
『神のふたつの貌』
著者 貫井徳郎
発行元 文藝春秋
ISBN 4-16-320320-6
日本を出て海外の安いホテルで暮らすバッグパッカー達は、お互いに脛に傷持つ身である為、あまり干渉せずに生きていた。
しかし、ホテルの住人である日本人マイコンが殺された事でどんどん事件に巻き込まれていく日本人客達。
なんとか自分達で犯人を探し出そうとするが、どんどん仲間が殺されていく。
日本人で銀行を襲い恋人を殺された女性が、マイコンのパソコンで整形前の顔を検索し、バッグパッカーの中に、恋人を殺した犯人がいると知る。そして女性は恋人を殺した犯人を殺し敵討ちをしたのだった。
同情の余地があり黙っているのを勧めたが、女性は銀行で恋人と共に焼き殺された他の銀行員の遺族の為にも自首し、真実を知らしめると言うのだった。
『沈没ホテルとカオスすぎる仲間たち』
著者 七尾与史
発行元 株式会社廣済堂出版
ISBN 978-4-331-05957-9
雑誌『ダ・ヴィンチ』で月毎にテーマを決め、募集した短歌をまとめたもの。
好きだなぁと思った短歌を書き出してみる。
・ごめんなさい。絶対告白しないから。どうか近くに置いて下さい
・総務課の田中は夢をつかみ次第戻る予定となっております
・どの道を帰ってきたの全身に悲しみの匂いこびりついてる
・「髪切った?」じゃなく「髪切ったんだね」と自信をもって言えばいいのに
・あなたの目ずっと見ながら話すのは、瞳孔の大きさを測るため
・もう二度と人の食べ物を笑わないいちばん低いところから落ちる
人の食べ物を笑うことはその人の今まで全てを笑うことだと作者からのコメントあり。本人が幼い頃からそう言われてきたのか、それとも笑われて嫌な気持ちをしたのか。その背景がすごく気になる。
・唐突に話題変えるの癖ですか?それとも遠隔操作されてる?
・目を閉じた人から順に夏になる光の中で君に出会った
なんか素敵
・まっすぐにぶつかってきてくれるぶん雨は君よりやさしいものだ
・私まで好きになりそう眩しい娘慕うあなたの視線の先の
日本人だからか、短歌ってスッと心に入ってくる。素敵ですね。
『短歌ください』
著者 穂村弘
発行元 株式会社メディアファクトリー
ISBN 978-4-8401-3864-2
40歳で身籠った信枝は、6ヶ月後に流産してしまう。楽しみにしていた子供を失った事で、子供を思わせる生き物を見たくもない信枝は、何度捨てても戻ってくる猫を、夫の進めもあり、飼うことにする。
母が拾ってきたくせに捨ててくるよう言われ、信枝を見て、猫を飼ってくれそうだと思い置いていったのだという、親に似て身勝手な小学生と、猫を通じて交流する夫妻。
やがて信枝が亡くなり、猫を看取った夫。
猫が来た事で流産した事がチャラになるわけでもないし、猫がいた十数年で、何かが変わったのかと言われれば、即答できない。しかし、猫と暮らした日々だけが、心にずっと残っていく。
救いは何もないが、日常を上手く切り取っている。
『猫鳴り』
著者 沼田まほかる
発行元 株式会社双葉社
ISBN 978-4-575-51378-3