病気にかかり、でも弱音を一切吐かなかった父。
最後まで生きようとしていた。
いや、死を覚悟していたのかも知れない。
私との最後の会話は、
父「お父さん退院したら、黒鶫の好きな焼肉しよう!」
私「あはは、それは嬉しいな。お母さんと妹さんは納豆パスタばっか作るから、嫌なんだ」
父「納豆嫌いな黒鶫がかわいそうだよ!だから、退院したら、焼肉にしよう!」
私「楽しみだよ」
父「よーし、お父さん腹一杯食べてやるから!」
この後、ほとんど会話できる状態ではなくなり、最後は、苦しむ事なく、眠るように逝ったそうです。
私は、毎日病院へお見舞いに行き、嘔吐が止まらない父の背中を擦ったり、父の手を握って声をかけたり、食べたいと言ったアイスを食べさせたり…。
とりあえず、できる事はしたつもりでしたので…悔いは…ない。
…そう言い聞かせました。
やってあげられる事はした…だから、悔いはないんだ…と。
父の看病は、叔母と母が交代で泊まり込みをしていました。
最後の朝は、叔母が付き添っていました。
呼吸が止まった…と家に電話が入り、母、妹さん、私で急いで病院へ。
母は、車駐車してるから、あなた達先にパパのところ行きなさい!と。
私と妹さんで、父の病室へ急ぐ。
病室に入り、そこから動けなくなる妹さん。
私は急いで父に近寄り、手を握る。
お父さん!と呼ぶ。
すると、まだ父の体につけられていた心電図が、一瞬動く。
私が驚いていると、黒鶫を待ってたのよ、と叔母。
…父が本当に待ってたのは、きっと母だ…と、私は思った。
色々あって、葬儀も終り、父が亡くなって2年になる。
今でもポロリと泣く時がある、でも悔いはないんだ…。
そんな私の心を砕く言葉があった。
昨日の話になる。
昨日、母が作った煮物を叔母宅へ届けに行った。
お邪魔する気はなかった。玄関で失礼しようと思った(叔母苦手)が、叔母に強引に上がらされる。
コーヒーを頂く。
叔母が、ちょっと真剣な顔で言い始めた。
叔母「今まで、黒鶫にも、妹ちゃんにも、お母さんにも話してないけどね?お父さん、最後に手を上に挙げて言ったのよ、
“たすけて…”
って…」
何かが…壊れた。
そうか…そうだよな、死ぬんだよ?…怖いよな…。怖くて当たり前なんだ。
ずっと助けを求めていたんだ…。
ごめんよ、お父さん、私は…お父さんに悔いのないように接してきたつもりだった…。
これは、自分の防衛手段だったんだ…。
そう…違ったんだ。
私は、お父さんを救ってあげられなかったんだ。
救えなかったんだ…。
今さらそんな…真実を知っても…どうにもならないけど…。
救えなかった、救えなかった…救えなかったんだ…。
ごめん。
一人で逝かせてごめん。
私は誰も救えないんだ。