貴方の総て、この身で愛しさを漲らせていたのなら、
私は今でも、
貴方の傍で、
笑えていたのだろうか。
〔愛しさ〕は何故、均衡を保てずに、徐々に廃れていくのだろう。
あの時は本当に好きで愛しくて、
確かに貴方のその温もりに、永遠にしがみ付いて行こうと誓っていた筈なのに。
如何してあの温かな想いは、薄れ消え失せていってしまったのか。
月日の経った今では、其れを確かめる術はない。
「……どんな顔していたっけ」
空中に白く漂う珈琲の湯気と、煙草の煙を見詰めながらふと呟いてみる。
そういえば吸い出したのもこの頃からだった、紅く色付く煙草の先に視線は釘付けになり、私は苦笑いをした。
本当に好きだったのか。
〔愛しい〕と感じていたのか、其れすらも危うい。
現実と無意識の曖昧な境界線。
幾度の季節を迎え、歳を重ねても不鮮明さは変わらぬまま。
「変わらないもの……」
煙草を口元に持っていく様は、吸う度に様になるようになった。
最初はなかなか上手く肺に吸い込む事が出来ず、其れでも自分の物にしようと躍起になっていたのかもしれない。
慣れる度に、上手に煙を口元から吐けるようになる度に……、愛情も吐き出されて消えた錯覚もあった。
変わらないものなんてあるのだろうか。
環境も変わる。
見た目も少しずつ、考え方も、何もかも。
目に見えるもの、見えないもの総てが変化するのは当然のこと。
……だから少しずつ、愛しさも失くした。
「何考えてるんだか」
そんなこと仕方ないのに。
遣り切れない感情を流し込むように珈琲を一気飲みし、短くなった煙草を思い切り吸い込む。
何故突然こんな事を真剣に考えてしまったのだろう。私は無性に自分が嫌になった。
「……あ。」
苛立ちを現すかのように灰皿に煙草を押さえつけながら、ぽつりと呟く。
思い出すかのように視線を天井を移し、私は再び言葉を発した。
「煙草の銘柄だけは変わってないや」
少しだけ、嬉しくなった。
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思い出したら、これだけは変わっていませんでしたというお話。
2008-9-13 03:15