ものをくれると言われて貰わないのは据え膳食わないのと同じだろうから大抵のものはもらうようにしている。そうやってじいちゃんにも習ったから。
「おい沢村、これやるよ」
「これって…?」
「ジンギスカンキャラメル」
御幸先輩は俺の名前を呼んだかと思うと、手のひらを前に出させ、そして白い包み紙にくるまれた四角いキャラメルをその上にころん、と置いた。
「はあ?じんぎすかん?」
「まあいいから食ってみろって」
ジンギスカンってあれだろ羊の肉…だっけ?そんなのを甘い甘いキャラメルにするだなんてミスマッチも良いとこだ!ああ、これはあれだ、ヒゲ先輩が少女漫画好きなくらい衝撃的なギャップだと思う。だからいくら沢村家の掟でもこれはむりむりむり!
「やだ!アンタからものくれるなんて何か裏があるからな!」
「…ははっ、即答かよ。俺はお前がバレンタインの時にくれた万丈目サンダーのお返しをしようと思ったのに」
「それは遊戯王じゃねーか!ブラックサンダーだろ!」
コンビニで販売されているチョコレートの菓子の変わりにこのキャラメルというのは些か理不尽だと思うけど。ってかお返しってそういうときだけ律儀だよな忘れとけばいいものの。
「そうそれ、たった32円でもお前の愛を感じ取ったって言うか大事なのは味だよなー…」
「無理矢理奢らせといてなに言ってんだよ!そして値段と愛が比例してると思って落ち込めばいいのに!」
「いやいや、素直じゃない沢村の代わりに俺がチャンスを作ったんだろ」
「はあ?ホント恩着せがましいよなアンタ!」
別に感謝とかしてないし、あげるつもりとか最初から無かったんだからな、いやツンデレとかそう言うのじゃなくてさ!勘違いすんなよ頼むから。
「はっはっはありがとう」
「これっぽっちも褒めてねーよ!」
「まあとにかく食ってみろって、ほぼ普通のキャラメルだから」
な、と笑って言われるけれどその笑顔を親しみやすいと思っていたら大間違いだ、裏には悪魔が潜んでいるのだから、もう何回騙されたことか!
「ほぼでも残りはジンギスカン入ってんのか?明らかにまずそうじゃんか!」
「はい栄純あーん」
御幸先輩は俺の抗議を無視して手のひらから奪ったキャラメルの包み紙を剥がし俺の口に寄せた。
あ、今気づいたけど俺って結構騙されやすい?こういうのってついつられて口を開けるんだけど、単純だからなのか、子供の頃の癖なのか。いずれにせよ俺は御幸一也の策略にまんまとはまったってわけだ。
「…あーん…もぐもぐ、はっ!しまったついつられて、おのれ御幸謀ったなあああああ!」
「ははっ、引っかかったし!それで…お味の方はいかがですか?」
「…何だよ結構ふつうじゃ…むぐ!」
口の中でころころと転がしてからもう噛んでしまってさっさと食べ終わろうとしたときに、もわもわした肉のにおいがした。それなのに口内は微妙に甘いし、全然合わない。やっぱり思った通りだったしな!
「ん?どうした、顔色悪いぜ」
「な、なんか変な味がするっ!」
「そりゃあまあジンギスカンですから?」
それなのに目の前の先輩はそんなこと最初から知っていたというように俺を見て笑っていた、本当に天使の皮をかぶった悪魔だよなアンタ!
「そんな呑気に言ってんなよ、三途の川が見えたぞ!」
ようやくごくん、と飲み込んで胃が早く消化してくれることを期待しながら下へ下へと送り出していった。
「あれ、もう飲み込んだ?もっと味わえば…」
「も、もういいっ!」
俺が必死で奮闘してたのに何でつまらなさそうなんだよこいつ、絶対楽しんでただろ!なあなあ!
「…ふーん、残念。じゃあ口直しのちゅー」
「はあ?待っ…」
何で口直しがちゅーなんだよってかさらりとそんな恥ずかしいこと言うんじゃねえええ!心の準備とか全くできてないんだけど…!
でもそんなのあの強引サディスト御幸一也様が聞き入れてくれるはずもなく、きっと俺はただその行為に従うだけ。
「拒否権ないし待たないし」
「…っ!ん…っみゆ、き」
唇を重ねながら漠然と思った、何かを考える余裕があると言うよりは向こうが全部好き勝手に俺を翻弄するからそれを受け止めるだけで、そっちに意識を持って行かれないように他のことを考えるしかなかったのだけれど。
相変わらず何に関しても御幸先輩は強引すぎる、この人が何で俺を好きなのかは分からないけれど多分このキャラメルをくれたのだって自意識過剰じゃなかったら多分こうやってキスするための過程だったんだと思う。
普通にキスしよう、なんて言って俺が応じないのをこの人は分かってる、だからこそ遠回りになってるけど、きっと案外楽しんでる。俺も、御幸先輩も。
「…ゴチソウサマ、あーやっぱ変な味するなーははっ」
ようやく唇が離されて、細く唾液の糸が延びた後、切れた。
不覚にも比較的唇をひっつけてる時間が長くて驚く、いつもは触れるだけの軽いキスなのに…ああ、違ういつもとか言ってるけどそんな関係じゃねえから!向こうが勝手にするだけだし!
「ばっ、ばかじゃねえのアンタ!」
「お前よりは頭良いよ流石に」
「そういうことじゃなくて…!」
何か口内を味わうようなキスをするからもしかしておいしかったのかと思ったのに変な味って、本当にバカだろ。
そこまでしてちゅーしたいか、アンタ本当に俺のこと好きすぎ、前に沢村バカって自称してたけど俺自身がバカなのとはまた意味が違うって知ってる。
「なに?もっかい口直ししとく?二回目は案外甘いかもな」
「…っ、」
それを断れない俺も相当御幸一也にご執心なんだけど、な。
言葉にしないで唇で伝える
(あい、らぶ、ゆー)
「おい、誰か止めろよあいつら。すっげえ目障りなんだけど、ヒャハハ」
「僕がストレートで御幸先輩の頭に」
「今日はストライク入りそうだね降谷くん!」
「今日は、な」
「…ガーン!」
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夢サイトの日記に載せていた御沢SSを加筆してupです\^o^/
よくもこんなの日記に載せたなと思いますが割と両方行ける方が多かったので甘えちゃってました。ただリアルな友人(中学時代の)には見られたくないので避難避難!!ってやつです。